臨床麻酔
和歌山県には、県立病院、子供病院、がんセンターがなく、和歌山県立医科大学附属病院がこれら全ての役割りを担っています。 したがって、新生児から高齢者まで、そして救急疾患・外傷疾患から悪性腫瘍症例まであらゆる症例の麻酔を経験できる数少ない国公立大学病院です。 手術室は19室あり、1日20〜25件の手術症例を管理しております。
小児麻酔研修について

当科では小児から成人まですべての患者さんの全身麻酔管理を行っています。また、当院は総合周産期母子医療センターとしての役割も担っており、生まれたての赤ちゃんが手術室に来ることも稀ではありません。
当科では以下の診療科・疾患に対する手術で小児麻酔を経験できます。
心臓血管外科 | 先天性心疾患(心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、ファロー四徴症など) |
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消化器外科 | 鼡径ヘルニア、中心静脈カテーテル挿入、内視鏡検査、胆道閉鎖症など |
整形外科 | 骨折、側弯症、多指症、筋生検など |
脳神経外科 | 脳腫瘍、水頭症など |
泌尿器科 | 停留精巣、精巣捻転など |
眼科 | 斜視、眼瞼内反症、網膜剥離、眼底検査など |
耳鼻咽喉科 | アデノイド肥大、慢性扁桃炎、中耳炎など |
皮膚科 | 母斑、血管腫など |
歯科口腔外科 | 口唇口蓋裂、齲歯など |
救急部 | 急性虫垂炎など |
小児麻酔は少数の麻酔科医によって行われる特殊な麻酔であるとのイメージを持たれていますが、決してそのようなことはありません。
当院にも上記のようにさまざまな疾患を持った多くの小児がやってきます。
「小児は成人を単に小さくしたものではない」とよく言われるように、小児麻酔を行うには疾患についてのみならず、
小児特有の解剖、生理、薬理学的知識が必要です。
また、成人が持っていないような先天的な基礎疾患を持っている小児に対しては基礎疾患に合わせた周術期管理を行わなければなりません。
研修医の皆さんも慣れないうちは成人との違いに戸惑うかもしれません。
小児専門施設とは異なり、毎日小児患者の麻酔を経験できるわけではありませんが、苦手意識を持たず、担当した症例を大切に研修してください。
心臓麻酔について
心臓手術の麻酔には、その循環管理の煩雑さから、大掛かりで難しく、外科の先生からも循環管理に注文が多いという、ややネガティブなイメージが従来から定着していました。 不十分なモニタリング環境のもとで、循環動態の不安定な患者に対し、大きな侵襲である心臓手術を安全に施行するには、これもいたしかたのないことだったのかもしれません。
そんな心臓麻酔も2000年ごろから急速に普及した経食道心エコー(TEE)によってその姿が一変しました。 血圧や心拍数しか情報がなかった以前と比較すると、心血管の形態や血流の変化が分かるようになったほか、外科手術自体の成否や発生しつつある合併症までもが術中に診断できるようになったのです。
このことは近年の心臓手術の質を大きく向上させると同時に、心臓手術に携わる麻酔科医にとっては、TEEを使いこなして麻酔や手術に役立てる新たなスキルが要求されることになりました。 現在はこのようなツールを生かすことで、麻酔科医も心臓外科医や体外循環技師と組んでチームワークで心臓手術を成功させる時代になってきています。

このようにTEEに習熟して心臓手術麻酔に生かせる技術の保証として、2004年から周術期経食道心エコー認定医試験(JB-POT)が我が国でも開催されるようになりました。 当施設でも現在までに多くの認定医を生んでいます。さらに2009年から心臓血管麻酔専門医の認定もスタートし、これにあわせて当施設も心臓麻酔専門医のいる認定研修施設として認可されました。 当施設では成人心臓手術から大血管手術、小児先天性心疾患手術にいたるまで、幅広い症例が研修可能で、地方病院でありながら症例に恵まれた希有な施設です。 今後、心臓血管麻酔専門医の取得を目指す方々には、この偏りのない経験症例数が必須条件になります。 私たちは若い皆さんのスキルアップをお手伝いすることで、心臓手術の麻酔の発展に寄与したいと考えています。
区域麻酔について
超音波ガイド下末梢神経ブロック
近年、深部静脈血栓症や肺塞栓症の予防対策として、周術期の抗凝固療法が用いられる機会が増えてきました。これに伴い、術中・術後鎮痛法として硬膜外麻酔が適応外となる症例が増加しています。そこで代替策として急速に普及してきたのが末梢神経ブロックです。しかし従来のランドマーク法や通電刺激法では成功率が高くありませんでしたが、超音波診断装置を併用することで神経・周囲の組織・ブロック針・局所麻酔薬の広がりを視認することで確実性・安全性が増しました。 当施設でも整形外科関節手術・呼吸器外科・消化器外科・泌尿器科手術や大動脈瘤の血管内ステントグラフト手術の症例などで、超音波ガイド下末梢神経ブロックを積極的に行っています。

下表のように上肢・下肢・体幹の末梢神経ブロックを症例に応じて行っています。術後鎮痛に使用できるように、可能な症例はカテーテルを挿入し、持続末梢神経ブロックを行うようにしています。従来の硬膜外麻酔と比べても遜色のない術中鎮痛と術後鎮痛が得られています。
当教室では関連病院でも積極的に超音波ガイド下末梢神経ブロックを行っているため、数多くの症例を経験することが可能です。一般に一つの手技が一人で出来るようになる目安として、30症例の経験を積むことが目標とされています。
後期研修医を含めた若い先生方に、なるべく短期間で集中的に症例を経験するようにし手技を獲得してもらうよう心掛けています。これからも末梢神経ブロックを含めた新しい手技を身につけてもらい、和歌山の医療に貢献していきたいと考えています。
手術に用いられる末梢神経ブロック
上肢 | 腕神経叢ブロック | 斜角筋間アプローチ 鎖骨上アプローチ 鎖骨下アプローチ 腋窩アプローチ |
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体幹 | 腹直筋鞘ブロック | |
腸骨鼠径神経ブロック | ||
腸骨下腹神経ブロック | ||
腹横筋膜面ブロック | ||
傍脊椎ブロック | ||
下肢 | 腰神経叢ブロック | |
大腿神経ブロック | ||
外側大腿皮神経ブロック | ||
坐骨神経ブロック |
傍仙骨アプローチ 臀下部アプローチ 前方アプローチ 膝窩部アプローチ |
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閉鎖神経ブロック |
